時候のご挨拶バックナンバー

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時候のご挨拶・今月の一枚  
                               会長 佐々木 建雄

25年ほど続けてきた日曜画家の作品を毎月一枚紹介し、それに森林インストラクターとしてのコメントを加えてみようというものです。
どうぞ、よろしくおつき合い下さい。

7月のこの一枚は「額縁三上山」のご紹介です。
三上山から北西の方向、琵琶湖の対岸に近江八景・唐崎の夜雨で有名な 唐崎神社があります。
唐崎の松は花より朧にてと境内には芭蕉の句碑が立っています。
もう何年も前に、この唐崎の松をスケッチに行ったときのこと、主役の松はもちろん堂々と、境内の真ん中に、天に昇る龍の如くそびえたっていました。
現在の松は3代目か4代目ということです。
唐崎神社に行った人は、この唐崎の松は当然目にし、それなりの思いを持つのでしょうが、その他の松の木に目を留める人はまずいないと思います。
ところが、境内の琵琶湖寄りに目をやると、一本の変わった樹形の松が目に入りました。
地上を這う主幹の両側からそれぞれ幹が立ち上がり、その間に遠く三上山の姿が納まっていました。
あたかもこの松が額縁の如く三上山を包み込み、見ごたえのある風景を作っていました。
どのような経緯をたどってこのような形に育ったのか。
多分、過酷な自然条件がこのような形を創造したのだと思います。
唐崎神社に行かれる機会があれば、是非こちらにも目を向けていただければと思います。



※ 制作の裏側

神社の境内の脇に小さな団子屋さんがあり、昔からみたらし団子が有名な店のようでした。
スケッチを終えて団子を食べようと店に入ると、年配の主人が出て来て注文を聞いてくれました。
話し好きな人柄とみえ、スケッチブックを見ると何を描きに来たのかと問われ、スケッチブックを披露する破目になり、しばらく談笑をしました。
まだお元気でおられるのか…、今月の一枚を機に思い出しました。
(作品データ:水彩F6号 マルマン 透明=W&N)


6月のこの一枚は、「水鏡・近江富士」のご紹介です。
田んぼに水を張ると、鏡のように周囲の景色を映すので、この状態を水鏡というそうです。6月になると稲も根付いて、これから夏に向けグングン成長する時期。
そんな田んぼに、雨上がりの三上山がくっきりと映っています。
三上山の西方向から、御上神社の森をはさんで望むと、今月の絵のような姿を見ることができます。
主峰の右側にある低い山は「女山」と登山マップに載っていました。
~三上山 のみ夏知れる 姿かな~ という句があります。
尾張の医師で俳人であった井上士郎(1742~1812年)という人の作品。
一見、どういう意味なのかピンときませんでしたが、解説文を読んで納得。
直訳だと、三上山のみが夏の青々とした姿をしている、ということですが、その裏には、日本三大禿山の一つ、田上山に代表される湖南一帯の禿山があったのです。
建築材として、薪炭材として、腐葉土材として、その他諸々…山の再生力を越える利用があったということです。
ただ、三上山は神体山としての聖地であったために、山が保護されていたので、青々としていたということでしょうか。
昔はアカマツが優勢で、三上山といえば松茸、と言われるくらいだったようですが、今は遷移が進んで、ふもとから陰樹のシイが優勢になってきました。



※ 制作の裏側

水彩画は水の挙動に大きく左右されます。良くも悪くも予期しない効果が画面上に表れて、一喜一憂することもしばしばです。
特に広い平面では、色を塗って乾くまでの変化が気になります。
今回は広い空、広い水田があるので、できるだけ色を淡く、変化が目立ちにくいよう配慮した、というより逃げたと言った方が良いかも知れません。
(作品データ:水彩 F6号 マルマン 透明=W&N )


5月のこの一枚は、「近江富士・黄色裾模様」をご紹介します。
草津市の東部を流れる葉山川は、左岸の堤防がサイクルロードになっていて歩きやすいため、地元の人の恰好のウォーキングコースになっています。
春になるとこの堤防の法面が黄色一色で覆われ、ウォーカーが黄色に染まるかと思うほどです。
黄色の正体は「セイヨウカラシナ」というアブラナ科の花。
ヨーロッパから、食用として栽培するため日本に入ってきたそうですが、いつの間にか栽培されなくなって野生化したのだとか。
例年ですと5月の大型連休前までは堤防が華やかなのですが、今年は他の花と同様、早く咲いて、さっさと種をつけてしまいました。
さて、河川敷や荒地を埋め尽くすほどに旺盛な繁殖力はどこにあるのでしょう。
まず思い当るのは種の多さです。物は試しとばかりに、散歩の途中で数えてみることにしました。
平均的な株を見つけ、早速カウント。
一株から茎が20本ほど立ち上がっています。
その茎から7~10本の枝が出て(太い枝からはさらに小枝も出ているがこれは省く)、枝1本当たり30~50個の莢がついています。
さらに、この莢の中に平均10個の種が入っていました。
これを合計すると、20×8×40×10=64000即ち一株に64000個の種をつけていることになり、この莢が弾けて種が飛び散るわけですから、結果は推して知るべし。
ただ、栽培されていたものがこれだけ広範囲に野生化していることについては、どこかに人為的なものが介在しているのではないかと勘ぐってしまいます。



※ 制作の裏側

山の手前に黄色い花が一面に咲いているという、構図としてはごく単純なものとなりました。
そこで、空の雲にも一役買ってもらうことに…。
いつもは添景物としての雲ですが、今回は少し存在感を強調してみました。
(作品データ:水彩 F6号 マルマン 透明=W&N 不透明=ホルベイン)) 


4月のこの一枚は「桜近江富士」のご紹介です。
4月と言えば、まず桜というのが真っ先のイメージでしたが、昨今はそうもいかなくなってきました。
今年は何と!3月に満開などと、かつて経験もしたことのない事態になってしまいました。
毎年、毎年、花の咲き方が早くなっているような気がします。
さて、桜と言えばソメイヨシノ。
私たちは咲き誇ったソメイヨシノを見てきれいだ、きれいだと歓声を上げ、楽しませてもらっているのですが、実はソメイヨシノの側からすれば、別に人間を楽しまそうと咲いているわけではありません。
鳥や昆虫を呼び、蜜を提供する代わりに受粉の手助けをしてもらう、そのためのデモンストレーションなのです。
しかし、どんなにきれいに咲き誇り虫が花粉を媒介しても、ソメイヨシノの種子ができることはありません。
ご存知のように、ソメイヨシノは人間が作り出したクローンなので、サクラ属の植物が持つ「自家不和合性」のため、たとえ異なる株の花粉が着いても、ソメイヨシノの種子が実ることはありません。
しかし、ソメイヨシノ以外の花粉であれば、交雑種の種子ができる可能性はあります。
このことは、遺伝子の多様度を上げるため、また、近親交配による劣勢遺伝子を作らないための、植物が持っている防御機能と考えられています。
人間が鑑賞するため、人間の都合で作り出されたのがソメイヨシノだと思うと、少し複雑な心境です。


※ 制作の裏側

昨年の4月も桜の作品で少しご紹介したと思いますが、水彩画で景色の前景に桜など白っぽい対象物を入れるのはなかなか難しいものです。
そこでお世話になるのが、濃い色の上から塗り重ねのできる、ガッシュという不透明水彩絵の具です。
白のガッシュにピンクをほんの少し混ぜて、桜色をつくります。
それを背景の上に塗り重ねると、前景の桜と背景の境目が不自然にならずに済むというメリットがあります。
(作品データ:水彩F6号 マルマン 透明=W&N、不透明=ホルベイン) 


3月のこの一枚は「逆さ近江富士」のご紹介です。
「逆さ富士」はよく見聞きし、画像も見る機会は多いのですが、これが「逆さ近江富士」、すなわち三上山が水面に逆さに映っている風景となると、それほどよく目にするわけではありません。
今回ご紹介するのは、希望ヶ丘公園の西ゲート近くにある、辻ダムという灌漑用のため池に映ったものです。
その時の三上山はちょうど淡い雪に覆われ、全体が白っぽい色合いでした。
空は晴れ風がなく水面が静かであるという絶好の条件で、逆さ近江富士を見ることができました。
ところで、葛飾北斎の富嶽三十六景と題した浮世絵はあまりにも有名ですが、このなかにも逆さ富士があり、ネットなどで見ることができます。
「甲州三坂水面」とタイトルのついた浮世絵、山梨県の御坂峠から見た景色と言われています。
確かに逆さ富士にはなっているのですが、見た瞬間に違和感を覚えました。
水面に映った富士山の位置が明らかにズレていること、富士は夏の装いなのに水面の富士は雪姿となっていることです。
これは、北斎のウィットであり、奇抜さ故と言われていますが、あまりに現実離れしていると、どうも…?と感じてしまいます。
皆さんはどう感じられますか?一度ネットなどで確認してみて下さい。



※ 制作の裏側

以前にも書きましたが、水面をそれらしく描くのはなかなか難しいものです。
水面に映り込んだ景色、微風によるかすかな水面の揺らぎ、光の反射などが渾然一体となっている様子を表現しなければなりません。
今回、意外に思ったのは、映り込んだ景色は思った以上に暗くしなければ、水面をうまく表現できないということでした。
(作品データ: 水彩F6号  マルマン)

2月のこの一枚は、北峰縦走路から見た三上山のご紹介です。
北側から見る三上山は、他のどの方面から見るより山頂がとがって見え、かつ裾野が長く、形がいちばん富士山に似ていると思われます。
また、視界に邪魔な人工物が入らないので、美しさもひときわです。
では、その美しい形はどのようにして出来たのか、にわか勉強の成果を少しだけ披露しましょう。
三上山の山の種類は残丘といい、浸食から取り残され孤立した丘陵とされています。
浸食から取り残されたということは、周囲の他の山が浸食されて低くなったのに、三上山は浸食されなかったということになります。
つまり、硬いということ。
三上山の表登山道を登るとよくわかるのですが、急傾斜の山麓に巨岩がむき出しになっています。
そして、これら巨岩は明らかに、浸食されやすい花崗岩とは違う顔をしています。
その正体は層状チャート。
珪酸を含んだ泥が、長年にわたって層状に堆積して水成岩となり、これが地殻変動により隆起し、マグマの熱で焼き固められ、層状チャートと呼ばれる硬い岩石になったという次第です。
しかし、硬いだけで美しい山容になるとは限りません。
硬い部分がたまたまあのような形の骨組みとして形成された結果であって、いわば自然の気まぐれか、神のいたずらとしか言いようのない世界なのです。



※ 制作の裏側

硬く風化しにくい三上山と、柔らかく浸食の進んだ周辺の山との違いを、色で表現してみました。
三上山は、思い切り寒色で冷たい感じの色を使ってみましたが、硬さを感じていただけたでしょうか。
また、低山ながら威風堂々とした姿を強調するため、空を広くとって解放感いっぱいにしてみました。
(作品データ: 水彩F6号 マルマン)

1月のこのコーナー三巡目の新年です。
最初は一年で終わりと思っていたのですが、何のはずみか気がついたら二年経っていました。
ということで、今年も続けることになりました。
本年もよろしくお願いします。
この一年は、湖南のシンボル「近江富士・三上山」のシリーズをお送りしようと思います。
  
今月は、近江八幡市・長命寺の森から見た三上山遠望です。
三上山は標高432mで、麓にある御神神社の御神体としても知られ、また、姿が美しいことから「近江富士」と呼ばれ、湖南のランドマークとして親しまれています。
「打ち出て 三上の山を詠れば 雪こそなけれ富士のあけぼの」と紫式部が詠んでいるように、この頃からすでに近江富士という意識が、人々の中にあったことをうかがわせます。
さて、ではその美しい山容は如何にして出来上がったのか?
そのあたりは次回からふれることにしましょう。



※ 制作の裏側

今からちょうど10年前の1月、2回目の琵琶湖一周挑戦中のコース取りで、長命寺~国民休暇村へのルートを、湖畔ではなく長命寺山、奥島山の三角点を結ぶルートにし、長命寺の石段を登り始めました。
折しも、前夜に降った雪が数センチ積もっており、辺りは銀世界。
石段をあえぎあえぎ登り、一息入れてふっと振り返ると、雪をかぶったスギの大木の向こうに、三上山が見えました。
その時の急ぎスケッチをもとに描いたのが、今回の作品です。
(作品データ: 水彩F4号 muse紙・中目)

12月のこの一枚は「暮れる」と題して、湖南アルプスの夕焼けをご紹介します。
数年前の元旦、初詣で代わりに金勝・狛坂の摩崖仏に参拝し、天狗岩に登り帰ってきました。
出発が遅かったもので、天狗岩を下りる頃はすでに黄昏時。山の日暮れは特に早く、急ぎ足の背中を追っかけるように迫ってきます。
足元が見えるうちに山を下りてしまおうと、ふと目をやった西の空は、今まさに太陽が沈もうとする瞬間。
山の稜線から下にあるものはすべて色彩が失われ、黒いシルエットに。
反対に空は、赤と黄色とブルーのグラデーションに彩られ、一日の終わりの儀式を華やかにかつ厳かに演出しています。
元旦早々、この壮大な自然の営みを目の当たりにできた幸運に感謝しつつ、慎重に慎重に山道を下りました。



制作の裏側
日の出や日の入りは、写真家や絵描きにとってなかなか魅力的な素材です。
ポイントは眩しさをいかに表現できるか、と自分では思っていますが、光の眩しさを画用紙で表現するのはなかなか難しいものです。
そこで今回は、手前の木のシルエットを強調することで効果を期待しましたが、思う様にはいきませんでした。課題を持ち越しです。
(作品データ: 透明水彩 F4 maruman 中目)

11月のこの一枚は「草紅葉 」と題して、晩秋の田園風景をご紹介します。
田んぼの表情も、四季の移り変わりに目を凝らしていると、なかなか変化があって面白いものです。
たわわに実った稲穂が刈り取られた後の田んぼは、黒い土と残った切り株だけの寒々しい風景に変わります。
それまでが、黄金色で華やかだっただけに、侘しさが一層つのります。
しかし、そんな風景もしばらくすると、再び一面が緑の色彩に彩られてきます。
残った切り株から「ひこばえ」が出てくるからです。
しかしその「ひこばえ」も、やがて秋が深まるとともに枯れ、田んぼは一面黄色から橙色に染まります。
紅葉は樹木の葉の専売特許だと思っていたのですが、草にもちゃんと「草紅葉」というのがあり、れっきとした秋の季語であると知りました。



制作の裏側
国道1号線を鈴鹿峠方面に向け走っていると、甲賀市水口から土山へ差し掛かるあたりに広がる田園風景。
の中に数本の針葉樹が、趣ある佇まいで……。
車を農道に乗り入れシャッターを押す。
フォーカスの中心は針葉樹でしたが、画像をチェックすれば、根本に広がる「ひこばえ」の色どりに魅せられていました。
(作品データ: 透明水彩 F4 muse 中目)

10月のこの一枚は「マイロード 」と題して、架空のある道をご紹介します。
今の日本は、田舎の路地までもが固い舗装路になってしまいました。
土の道を歩こうと思うと、あぜ道か山道くらいしかありません。
そこで、自分の理想の道を画用紙に表現してみました。
自然豊かな田舎に一本の地道がうねっています。
歩いて良し、ジョギングも良し、自転車を駆るのも良いでしょう。
でも、エンジン付きの車は進入禁止!
そんな道が日本のあちこちにあれば、ウォーキング人口は増え、メタボが減り、医療費も減り…と思いが跳んでしまいます。
イギリスには「フットパス」と称する、歩くための小路が国中に張り巡らされていると聞きます。
本当の意味で、人の歩ける道が身近にあれば、また、そんな道を大事にする風潮があれば、世の中もっと変わると思うのですが…。



制作の裏側
何年か前、ある航空会社が出しているカレンダーの景色に、目が止まりました。
アメリカ北部にある州の田舎の風景です。そして、この風景の中にスッと入って行けるかのような錯覚を起こさせるのが、大木の間を通る道。
これを自分の絵にしてしまえば、この風景はすべて自分のものになる。
そんな勝手な理屈をつけて、この「マイロード」の所有権を得ることに成功しました。
(作品データ: 透明水彩 20P アルシュ 中目)

9月のこの一枚は「 奔流(ほんりゅう)」と題して、瀬田川の流れをご紹介します。
琵琶湖から流れ出る唯一の河川である瀬田川は、普段はごくおだやかな流れですが、時に激しい流れに豹変することがあります。
それは、琵琶湖の水面が危険水位を超えるなどの緊急事態のとき、瀬田川洗堰からの放流量が増えるから、というのはよくご存知の通りです。
これから台風シーズン。このような場面が多くなりそうです。
洗堰は国交省琵琶湖河川事務所が管理し、「瀬田川洗堰操作規則」によって、あらゆる場面に対応できる体制が敷かれています。
さて、あらゆる場面に対応ということですが、次のような場面ではどうなのでしょうか?
例えば、淀川水系に大雨が降り、下流である淀川も水位が上がっている状態で琵琶湖の水位が危険ゾーンになってきたら…うかつに放流すると淀川が氾濫します。
では、どうすれば?
実は、琵琶湖も危険、淀川も危険という状態は同時には来ないそうです。
淀川の流量ピークと、琵琶湖の水位ピークには時間差があるそうで、琵琶湖の水位ピークの方がほぼ一日遅れるのだそうです。
自然はうまく出来ていますね!



制作の裏側
本作品の舞台は、洗堰からずっと下流の鹿跳橋(ししとびばし)の下の河原で、鹿跳渓谷と呼ばれる瀬田川の景勝地。
普段は岩の露出量が圧倒的に多いのですが、この日は水量の方が勝って岩の壁をほとんど隠しています。
水流は、広い川幅から急激に狭くなった方に集中したために、一気に白い牙を剥く急流となりました。
対岸の岩は、ほとんど角がとれています。
(作品データ: 透明水彩 F4号 コットマン 中目)


8月のこの一枚は「浄土」と題して、在りし日のハスの群生地をご紹介します。
この絵のように、草津市下物(おろしも)にある烏丸半島の入江(赤野井湾)は、夏になると一面ハス池と化し、緑の絨毯に30万輪の花が咲く見事な景観になっていました。
静かな早朝ここに立つと、まさに「極楽浄土」はこんな所か、と思わせるような荘厳な空気に包まれます。
しかし、2016年(平成28年)を最後に、ハスたちは忽然とこの場所から姿を消してしまいました。
はっきりとした原因は未だわかっていないそうですが、過密になったために水中で根が窒息したのでは?などという説があるようです。
以来、復活を目指して様々な試みが行われているようですが、決定打はなさそうです。
さて、よく耳にする質問ですが、ハスとスイレンはどこがどう違うの?
両者の実物を見れば一目瞭然ですが、簡単な見分け方を二つ三つ紹介しましょう。
ハスは花、葉ともに水面から高いところにありますが、スイレンは花、葉とも水面すれすれで、水に浮いているように見えます。
ハスの葉には切れ目がありませんが、スイレンの葉には一か所切れ目があります。
ハスの種子はやはり水面より高い位置に、如雨露の口のような形をした、いわゆるハチスのなかに収まっていますが、スイレンの種子は水中に引き込まれて、水中を漂います。
参考になったでしょうか?



制作の裏側
絵画の技法に「空気遠近法」というものがあります。
空気遠近法は、大気が持つ性質を利用した空間表現法です。
戸外を眺めてみると、遠景に向かうほどに対象物は青く見え、また同時に遠景ほど輪郭線が不明瞭になり、対象物はかすんで見えます。
こういった性質を利用して空気遠近法では、遠景にあるものほど形態をぼやかし、色彩をより大気の色に近づけるなどして、空間の奥行きを表現します。
こんな言葉や技法は知らずに描いた本作ですが、実物をよく見て描けば、自然と空気遠近法を取り入れているのでは、と思いますが、本作如何なものでしょうか?
(作品データ: 透明水彩 F4号 コットマン 中目)


7月のこの一枚は「聖地」と題して、大津市葛川にある明王谷をご紹介します。
画面中央、朱色の欄干の橋(三宝橋という)を右から左に向けて渡ると、葛川明王院があります。
比叡山延暦寺の千日回峰行創始者、相応和尚(そうおうかしょう)が、天台修験道場として開基したと伝えられています。
~相応和尚が、明王谷の奥にある三の滝で修行中、滝壺に不動明王が現れ、感激のあまり飛び込み抱きついたが、不動明王と見えたのは実はカツラノキの流木であった。
その木を持ち帰った相応和尚が、一心に不動明王を彫り、お堂にお祀りしたのが明王院の始まりであると~
毎年7月16日~20日の5日間、この明王院において「夏安居(げあんご)」といわれる天台僧侶の修行が行われ、中でも「太鼓回し」という一風変わった行事が修行のハイライトの様です。
さて、三宝橋の下流側から見ると、イロハモミジが橋の欄干を覆うように、そして渓流にかぶさるように茂っています。
初夏から夏にかけて青々と茂るモミジを「青モミジ」と称し、秋の紅葉と対比して表現します。
染み入るように鮮やかな緑が渓流の瀬音と相まって、聖地にふさわしい静けさと涼しさを醸し出しています。



制作の裏側
モミジといっても、モミジの葉を一枚一枚描くわけにはいかないので、見る人にそうとわかってもらうにはどうしたら良いか。
渓流の水の動きをどう表現したら良いのか。
これが作品をつくるポイントでした。
濃い色の緑の点を、縦・横・斜めに幾重にも重ねていく。
水の流れに沿って丹念に筆を動かしていく。
この作業を根気よく続けました。
(作品データ: 透明水彩 F6号 中目)


6月のこの一枚は「緑風」と題して、ブナの森をご紹介します。
森の木々も、若葉からより濃い緑に変わっていく季節になりました。
この時期に、落葉広葉樹の森に入ると、まるで緑色のシャワーが降り注いでくるような錯覚を覚えるほど、葉にみずみずしさを感じます。
マキノから八王子川に沿って黒河(くろご)林道を登り詰めると、近江と若狭の分水嶺、黒河峠(くろごとうげ)に出ます。
この辺り一帯は豊かなブナの森が広がり、峠道を歩いて疲れた身体を休ませていると、ブナ林を渡った涼風が汗ばんだ身体を癒してくれます。
赤坂山、三国岳など高島トレイルを目指すハイカーたちは、このブナ林で一息入れ、元気をもらい登っていくのでしょう。
ブナの森を堪能するには、今の時期がちょうど良いと思います。



制作の裏側
あまりアップダウンが無くて快適に歩けるブナの森があれば、などと勝手に自分に都合の良い森を想像して描いてみましたが、イメージは黒河峠がベースになって
います。
絵を見る人が、ひょいと森に入って行けるよう、散策道も入れたつもりですが、気づいていただけたでしょうか…。
(作品データ: 透明水彩 F10号 アルシュ 中目)

5月のこの一枚は「朝の光」と題して、バラの花をご紹介します。
各地のバラ園では、花の最盛期に向けて手入れに余念がないことでしょう。
しかし今年は、優雅にバラを鑑賞するという楽しみを放棄せざるを得ない事態であることは、すでにご承知の通りです。
とても本物にはかないませんが、せめてものなぐさみになればと思い、この絵をお届けします。
バラの品種は大きく分けてオールドローズとハイブリッドローズ。
オールドはその名の通り、古典的な原種に近い品種。ハイブリッドは品種改良を重ねた現代的バラといえるでしょう。
オールドは花弁が50~100枚にもなり、複雑に重なり合った花の姿であり、ハイブリッドは花弁が少なく、スッキリとした現代風と表現できそうです。
どちらを好むかは人それぞれですが、今回はオールドローズを選びました。
バラの花は、愛の女神ヴィーナスとともに、泡立つ波のなかから生まれたと言い伝えられ、ギリシャの詩人は「花の女王」と讃え、その香りを「恋の吐息」と表現したそうです。



制作の裏側
バラの花を愛でるには、やはり朝のすがすがしい空気の中がふさわしいのではないでしょうか。ということで、朝の光を意識してみました。
また、オールドローズの複雑にからみ合った花弁の様子を感じていただければ幸いです。
(作品データ: 透明水彩 F6号 マルマン 中目)

4月のこの一枚は「薫風」と題して、彦根市の荒神山をご紹介します。
彦根市の南部に位置し、田園地帯にこんもりとした姿を見せる荒神山は、標高283mの低山ですが、周囲に視界をさえぎるもののない独立峰につき眺望は抜群で、特に琵琶湖にある三つの島を、同じ場所から見ることができます。
滋賀県広しと言えど、他にこのような場所があるでしょうか。
荒神山奥山寺縁起によれば「天平三年行基菩薩が四十九院を建立すべき願いありしところ、忽然大空に声あり、三面八臂(さんめんはっぴ)の姿をあらわし…まずわれを祀らざれば大いに障害をなす…という。行基これに驚き山を開いて奥山寺を創建、多羅樹でその像を造り三宝大荒神といい、これより山の名を荒神山と名づけたり」と山名の由来があります。
麓の曽根沼から見ると、折しも桜のシーズン。山麓に点々と山桜(多分)の淡い色が見えます。
池の畔で桜を眺めていると、一陣の風がサーっと吹き抜け、静かな水面が一瞬ざわめきました。



制作の裏側
春の心地良い風を、画面に表現するのはなかなか難しいことです。
皮膚で感じる心地良さを、視覚で感じてもらわなければならないのですから。
風を受ければ草や木の葉も動きますが、小さな画面にはなかなか表現しづらいものです。
そこで目をつけたのが水面。風が吹くたびに水面に模様ができます。
どうか、想像力を目いっぱい働かせて、この場に立って風を受けているつもりでご覧いただければ幸いです。
(作品データ: 透明水彩 F4号 ミューズ 中目)

3月のこの一枚は「霊木」と題して、コウヤマキを紹介します。
NHKの朝ドラ「スカーレット」も今月をもって終了の様ですが、舞台となった信楽にちなんで、この題材を選びました。
信楽高原鉄道の終点、信楽駅の一つ手前に、玉桂寺前という駅がありますが、その駅の目の前に玉桂寺という真言宗の古刹があります。
境内には弘法大師お手植えと言い伝えのある、りっぱな「コウヤマキ」の巨木があり、昭和44年3月に滋賀県の天然記念物に指定されています。
以前訪れた際、記憶に留めておこうとスケッチしたものです。
コウヤマキはコウヤマキ科のなかで1属1種、日本固有種で、水に強く朽ちにくいことから、古代には貴人の最高級の木棺として、また水桶や橋杭などに使われたようです。
また、秋篠宮家悠仁親王の御印の木としても知られています。



制作の裏側
スケッチの現場は、お寺の本堂に向かう石段の左右で、いくつもの株が群生していて、お寺の看板によれば左側に43株、右側に22株もあり、とても全容を収めることは不可能。
そこで、特に左側の主幹の幹回りが6.1m、樹高が31.5mであることから、この幹を主に描くことにしました。
正確な樹齢は定かではありませんが、数百年を経ていることは間違いないでしょう。過酷な自然環境に堪えてきた、その様子が少しでも表現できればとの思いで制作しました。  
(作品データ: 水彩F4号  マルマン)


2月
のこの一枚は「飛翔」と題して、オオワシを紹介します。
地元の人たちから、「山本山のオバアチャン」と呼ばれ親しまれているのは、今年で飛来22回目を数えるオオワシの雌。
年齢は推定28歳以上。人間でいえば、もう90歳になろうかという超高齢の個体です。
本来はオホーツク海あたりで魚を捕りながら越冬するオオワシですが、何故かこのオバアチャンだけが毎年琵琶湖に渡って来て、湖北の山本山をねぐらにしているのか……?
少なくとも、棲みやすく餌が豊富だという理由は間違いないところでしょうが、この個体一羽だけが毎年というのは謎です。
ところで、いま海がプラスチック汚染で深刻な状態に陥っています。
毎年800万トンものプラスチックが、ゴミとして海に溜まっているそうで、海洋生物への影響が深刻化しています。
風化や波の力でマイクロ化したプラスチックは、まず魚介類に取り込まれ、いずれ、食物連鎖の頂点にいるオオワシにも悪影響が出るのは必至です。
もちろん、われわれ人間も例外ではありませんが、それは元凶を作り出した者への天罰だと言われれば、反論の余地はないでしょう。
山本山のオバアチャンは、今月の末には北に帰って行きます。
来年23回目の飛来が確認されたら、是非一度、その雄姿を見たいものです。



制作の裏側
野生動物を、じっくりスケッチするなどというのはまず不可能です。
まして、自由に飛び回る鳥となるとなおさらのこと。
そこで、頼るのは写真ということになりますが、それでも素人には難しい。
写真をもとに絵にするというのは、本来やってはいけないことですが、今回は、その禁を犯してしまいました。
飛来を知らせる新聞記事は必ず写真つきで掲載されるので、その写真を拝借したという次第です。
(作品データ: 水彩F3号  マルマン)


1月 このコーナーも二巡目の新年となりました。
今年もよろしくお願いいたします。
さて今月は「老楠の春」と題して、京都市東山区にある青蓮院の楠の巨木をご紹介します。 
説明看板によれば、樹齢800年、幹周り6mとのことで、京都市の天然記念物にも指定されています。
これだけ樹齢を経ていても、春になると元気に黄緑色の葉をいっぱいに繁らせ、辺りにパワーを放っています。
このパワーの素になっているのが、フィトンチッドと呼ばれる抗菌、防虫作用を持つ物質で、昔は楠から抽出した樟脳が防虫剤として、どこの家庭でも箪笥に入っていたものでした。
ちなみに、樟脳の「樟」の字はクスノキの中国名で、楠は和名とのことです。
老いてもなお盛ん。青蓮院の老楠にあやかりたいものです。



制作の裏側
この作品を描くためにスケッチに行ったのは、もう10年も前。
三条通りの粟田口から知恩院、円山公園の方に抜ける道沿いにある巨木が、お目当ての楠です。
スケッチをするには、場所的条件からどうしても道沿いの塀にぴったりと背中をつけた姿勢しかとれなくて、ずい分きゅうくつな作業となり、また下手なスケッチでは人目も気になり、とても楽しみながら悠々という心境ではありませんでしたが、作品が出来上がってしまえば、苦労も楽しい思い出に変化してしまうようです。
(作品データ: 水彩15号 アルシュ紙・中目


12月
は「和 」と題して、三島池の水鳥をご紹介します。
伊吹山のふもとにある三島池は、伊吹山が逆さに写る池として、アマチュアカメラマンや絵描きの格好の題材になっています。
また、静かな水面は水鳥たちの絶好の休息場所にもなっています。
雪を戴いた伊吹の麓で、マガモの夫婦がくつろいでいる様子は、平和そのもの……。
地球上のすべての場所で、この様に平和な光景が見られるようにとの願いを込めて描きました。
今年一年、ご訪問ありがとうございました。



制作の裏側
水面に氷が張った様子を絵の具で表現するテクニックは色々あると思うのですが、ちょっと変わったおもしろい方法として、食塩を使うやり方があります。
紙面に水をたっぷり含ませ、淡いブルーをサーッと塗ります。水分が乾かないうちに、その上に食塩をパラパラとふりかけます。食塩が水分を吸収すると、紙面は複雑なまだら模様ができ、氷の表面を思わせるような景色になるというわけです。
完全に乾いたら、塩をきれいに払い落とします。
(作品データ: 透明水彩10号 アルシュ紙 中目)

11月は「山おやじ 」と題して、ブナの老木をご紹介します。
数年前、比良連峰の一つ「釈迦岳(1,060.3 m)」に登った時、ブナの群生と出遭いました。
日本海側から吹き付ける風と深い雪の重みですべての木の根元が一旦琵琶湖側に倒れ、そして力強く空に向かい立ちあがっていました。
ブナは本来、平滑で美しい幹肌をしているのですが、長年風雨にさらされると様々な傷痕が残ります。
痛々しさを感じるのですが、それが却ってブナの生きてきた軌跡として、力強く訴えてくるものがあります。
ブナの老木の、苦闘の歴史に敬意を込めて描きました。



制作の裏側
「山おやじ」という呼び名は、北海道ではヒグマのことを指すそうです。
また、薪炭材として萌芽更新を繰り返しているうちに、根元付近がコブになり、なかには洞ができているものもある、高島市マキノの雑木林のクヌギを指して、写真家の今森光彦氏が命名した呼び名でもあるそうです。
今回の作品は材がブナですが、その表情をみていると、どうしても作品名として「山おやじ」以外に思いつかず、使わせていただきました。
(作品データ: 透明水彩 30号 ワトソン紙 中目)


10月は「樹冠 」と題して、森の様子をご紹介します。
森を外側から見ると、樹木は好き勝手に幹や枝を伸ばし、葉を繁らせているかのように見えます。
確かに、手入れの悪い人工林などは、狭いすき間からわずかにさし込む光を求めて、枝が密集して光をさえぎり、暗い森が形成されています。
ところが、遷移の最終段階である極相の森であるにもかかわらず、森の内部に入って見上げると、シイ、カシなどの大木がかなりの密度で生育している森でも、樹木同士の秩序が保たれているかのように、樹冠と樹冠の間にわずかの緩衝地帯ができ、お互いの枝葉が重ならないような造りになっていることがわかりました。
その様子が模様として面白く、画用紙に表現してみようと思いました。
森の木々の分をわきまえた謙虚さには、とてもまぶしいものを感じます。



制作の裏側
今回の作品は絵画というより、むしろ自然観察見取り図といった方が良いのかも知れません。
森林インストラクターが個人的な興味から作成したものなので、一般受けはしないと思います。
森も見る角度を変えればこうなる、と受けとめていただければ幸いです。
(作品データ: 透明水彩 30号 ワトソン紙 中目)


8月は「飛翔 」と題して、渡りをする蝶 のご紹介です。
アサギマダラという、色彩のきれいな蝶がいます。
真夏の空と同じ、ブルーの羽根が鮮やかです。
蝶といえば、花から花へフワリフワリと優雅に舞う姿が一般的なイメージですが、この蝶は違った面を持っています。
暖かい夏を日本で過ごしたアサギマダラは、秋になると南に渡ります。
その距離、何と2千km。
国際的に愛好家の間で確認された記録は、
春の北上例で、台湾陽明山→滋賀県大津市の1790km(所要39日間)
秋の南下例で、和歌山県日高町→香港の2420km(所要83日間)
などがあります。
一見頼りなさそうに見える蝶の、どこにこんなエネルギーがあるのか?
どんな飛行コースを取るのか?途中、どれくらい休憩をしているのか?
まだまだ謎の部分があるようです。
アサギマダラと出合うには、彼、彼女らの好物のある場所に行くのが一番。
真夏は標高1,000mくらいの山地で、ヨツバヒヨドリ、ノリウツギの花へ。
9月~11月の低山、平野部で、フジバカマ、ヒヨドリバナ、アザミ、ツワブキなどに吸蜜に来るそうです。



制作の裏側
野生の生き物をスケッチするのは難しい。特に鳥や蝶はすぐに飛んで行ってしまうので、まずスケッチは不可能。そこでカメラの助けを借りることになる。
伊吹山の山頂遊歩道・東コースを歩き終え、終点である駐車場に到着する直前に幸運が訪れた。
道端に咲くヨツバヒヨドリの花に、アサギマダラが吸蜜に来ているのを発見。
すでに先客が三人ほどカメラを構えている。急いでカメラを取り出しレンズを向ける。
ズームを操作する間も、飛んで行ってしまうのではと気はあせるばかり。
しかし、この被写体は、こちらの気持ちを察してか、逃げずにポーズをとり続けてくれた。
(作品データ: 透明水彩 6号  ワトソン紙 中目)


7月は「迸る(ほとばしる)」と題して滝のご紹介です。
暑くなると水辺が恋しくなります。
ちょうど一年前、涼を求めて目指したのは「楊梅(ようばい)の滝」でした。
湖西線の北小松駅から、頑張れば歩いて1時間と少しの行程で、雄滝の滝壺へたどり着くことができます。
滝壺に降りると、轟音とともに冷気が体を包み込み、下界の猛暑とは無縁の世界に浸ることができます。
轟音ではあるが騒音ではない、水の迸る音は心を落ち着かせるリラックス効果があります。この滝については、水田有夏志著「近江の滝」に詳細が記載されていますので、そちらを参照されると良いですが、この中で筆者は、「楊梅の滝」は本来「遥拝の滝」であったのではないか、と述べています。
楊梅はヤマモモのことで、室町幕府第十三将軍の足利義輝がここを訪れた時、滝をヤマモモの木に例えて命名したという言い伝えもあるようで、その関係から楊梅の字が当てられたのではないか、というわけです。
確かに、この滝に対面すれば、自然と手を合わせたくなる「遥拝の滝」の名もうなずけます。



制作の裏側
滝壺から見上げた時の、圧倒的な迫力をどのように表現すれば良いのか、勢いある水の表現をどうすれば良いのか、難しい課題でした。
岩に飛び散る水を表現するのに、マスキング液を使ったのは正解であったと思います。
(作品データ: 透明水彩 30号  アルシュ紙 中目)


6月
は「朝もやに咲く」と題したアジサイをご紹介します。
梅雨時の花は何といってもアジサイ。昔からの定番のようです。
確かに、太陽がさんさんと輝く光の中より、小雨にしっとりと濡れたアジサイの方が風情を感じますね。
さて、昔からよくいわれているように、アジサイの色は酸性の土壌では青系、アルカリ性だと赤系ということになっていますが…
ポイントとなるのは、アジサイの色素成分のベースがアントシアニンであることと、色を決定する成分はアルミニュームであること。
酸性の土壌においては、土壌に含まれるアルミニュームが溶け出しやすく、根に吸収され、アントシアニンと結合すると「青」に。
アルカリ性土壌においては、アルミニュームが溶け出しにくく、アントシアニンとの結合もないので「赤」に。
また、白いアジサイはアントシアニンを持っていないため、根から吸収する成分に影響されず、色は変わらない…
ということだそうです。



制作の裏側
アジサイのあの大ぶりな花(装飾花)を咲かせるためのエネルギーは、相当なものが必要であろうことは容易に想像できます。
そのため、栄養の製造工場である葉っぱも、それなりにしっかりしたものでなければならないはず。
確かに、大型で肉が厚く、鋸歯も深く、葉脈もはっきりとしていて、力強い生命力を感じさせてくれます。
そんな葉っぱになるよう、花以上に時間を割いて描きました。
(作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)


5月
はそのものズバリ、「若葉」と題した一枚をご紹介します。
何年か前に登った御在所岳(1,212m)の、北側展望台から眺めた景色で、眼下一面に広がる若葉の黄緑色が強く印象に残り描いたものです。若葉の正体はミズナラでした。
ブナと同様、冷涼な気候を好むミズナラは、関西地方では標高800mくらいから上の山地帯で見られます。
深い切れ込みのある大きな葉っぱ、大型のドングリ、材は堅く緻密で幹肌はシルバーに輝く、一見して風格を感じさせる樹木です。
また、葉は虫の餌として、ドングリは鳥や獣の栄養源として、森の生態系を維持するうえでも重要な樹木であると言えます。



制作の裏側
画面の80パーセント以上を占める黄緑色のゾーンを、単調な色使いにならないよう、また、ミズナラの森であることをわかってもらえるよう、鋸歯を描き込む努力をしました。
        (作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)

4月のこの一枚は「春爛漫」と題して、桜をご紹介します。
新元号が決まり、世間は祝賀ムード一色となりました。そんな時期に桜ほどピッタリの花はないですね。
江戸時代の国文学者である本居宣長は……
「敷島の 大和心を人問はば 朝日に匂う 山桜花」と詠みました。
ソメイヨシノ全盛の今と違い、その頃は、桜といえば山桜が観賞の中心になっていたものと思われます。
さて、日本の桜の80%はソメイヨシノだそうですが、人気の秘密は、葉が出る前にピンクの花が咲き揃うというエドヒガンザクラ(母種)の特長と、大きくて整った花付きの良さというオオシマザクラ(父種)の特長を併せ持っていることから、一斉に咲くと見事な景色となって、人々の心を魅了してしまうから、ということになるのではないでしょうか。



制作の裏側
水彩画の場合、白の部分は絵の具を使わないで、塗り残して画用紙の白を活かすことが多いのですが、桜の花のように 小さなものの集合体は、塗り残すなどという作業は至難の業です。そこで登場するのが、不透明水彩絵の具(ガッシュ)です。これだと、他の色の上に白を塗ることができ、作業がやりやすくなります。
とはいえ、膨大な数の桜の花を一輪一輪描いていくのは、大変根気のいる仕事です。それだけに、豪華絢爛な満開の桜が完成したときの達成感は、他に代え難いものがあります。
  (作品データ: 不透明水彩(ガッシュ) 30号  アルシュ紙 中目)

  
3月のこの一枚は「春の妖精」と題して、カタクリをご紹介します。
春まだ浅い里山の林床に、落葉をかき分けいち早く顔をのぞかせる小さな軍団がいます。
セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ等々。
そして、今月の一枚の「カタクリ」もその一員です。
落葉樹林の樹冠が繁り切らないうちに、陽光がよく射しこむ林床に姿を見せ、葉を広げて光合成をし、花を咲かせ、種を実らせ、樹冠が繁ってくる頃にはもう地上から姿を消しているという早業を駆使して、この後長い休眠に入るという、このような生き方をしている植物群は総称して「スプリングエフェメラル」と呼ばれています。
エフェメラルは「短命の」を意味するギリシャ語の「エフェメーロス」に由来するとされています。
そして、「スプリングエフェメラル」は「春の妖精」と和訳されていますが、日本人の感性が盛り込まれた、なかなかの名訳だと思います。
ちなみに、カタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」だそうです。



制作の裏側
地面からせいぜい10cm程度の草丈で、花の大きさも2~3㎝の小さな植物を、30号の画用紙に描くとなると何倍に拡大されるのか?
巨大なカタクリになってしまったら「春の妖精」のイメージから外れてしまうのでは……と思いながらも、カタクリの可憐さをそこなわないよう、柔らかい色使いになるよう心がけながら制作しました。
この作品をある美術展に出展したところ、審査員が開口一番、この作品の作者は20代のうら若き女性かと思った、とのコメントがあったことを後日談で知りました。古希を越えたオッサンで大変失礼しました(笑)
          (作品データ: 透明水彩30号  ワトソン紙 中目)

2月のこの一枚は、題して「艶葉木(つやばき)」です。
艶葉木とは、ツバキの古名で、また、厚葉木(あつばき)とも呼ばれていました。それがいつしか変化して、現在のツバキと発音されるようになったといわれています。
昔の人は、葉の「艶」や「厚さ」に着目して名前をつけたということでしょうね……。
ツバキといってもその品種は 今や2千種を越えるといわれていますが、日本の自生種は原種のヤブツバキです。
さて、昔の人が着目したツバキの葉の「艶」と「厚」には大きな意味があったのでしょうか?常緑樹であるツバキは冬でも葉を落とさず、弱い光でも光合成ができるよう、葉を厚くしてたくさんの葉緑素を保有する必要がありました。 また、冬の寒さや乾燥、夏の熱気などから大事な葉っぱを守る必要がありました。そのため、表面にクチクラ層という保護膜が形成されています。これが「艶」の正体。
1年中無休で働かなければならない葉っぱには、「艶」と「厚」という手厚い投資がしてあるというわけです。
光合成が科学的に解明されていない大昔、人々が赤い花よりも緑の葉に着目した理由は何か、聞いてみたくはありませんか?



制作の裏側
タイトルを「艶葉木」としたために、花より葉の方が主役のイメージになりました。そのため、タイトルに恥じないよう、花よりも葉を描く方に多くの時間を割きました。
光の反射で艶々とした表面を表現するのに、葉の一部を塗り残し、絵の具が乾かないうちに、濡れた筆で塗り残しと絵の具の境界をなぞってボカす、という作業を葉っぱ一枚ずつ、すべての葉に施しました。なかなか根気のいる作業です。
さて、この一枚が、「艶葉木」のタイトルにふさわしい作品になっていれば良いのですが……。
           (作品データ: 水彩15号  アルシュ紙 中目)

1月は「神のおわす山」と題して、雪を冠した伊吹山を選びました。 
日本百名山で滋賀県の最高峰、標高1377mの名峰は、また、花の山としても人気が高く、毎年多くの登山者、観光客を集めています。
伊吹山を語る題材は数え切れないほどですが、その中で、昭和2年(1927年)2月に記録した積雪量1182㎝は、有人観測史上世界一であり、その記録は未だに破られていないそうです。



この作品の元となったスケッチを描いたのは、2011年2月、米原市入江地区の湖岸に近い田んぼの畔にて。
真っ白な雪を戴いた伊吹山は、まさに「神のおわす山」にふさわしいオーラを発し、輝いていました。 (作品データ: 水彩30号 ワトソン紙・中目)