時候のご挨拶バックナンバー

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時候のご挨拶・今月の一枚  
                               会長 佐々木 建雄

今までこのコーナーは、時候のご挨拶として、写真の画像で様々な自然をご紹介してきました。
今年は、平成の年号が変わる年でもあり、少し趣向を変えてみることにいたしましょう。
題して「時候のご挨拶・今月の一枚」…というタイトルで、25年ほど続けてきた日曜画家の作品を毎月一枚紹介し、それに森林インストラクターとしてのコメントを加えてみようというものです。
どうぞ、よろしくおつき合い下さい。


7月は「迸る(ほとばしる)」と題して滝のご紹介です。
暑くなると水辺が恋しくなります。
ちょうど一年前、涼を求めて目指したのは「楊梅(ようばい)の滝」でした。
湖西線の北小松駅から、頑張れば歩いて1時間と少しの行程で、雄滝の滝壺へたどり着くことができます。
滝壺に降りると、轟音とともに冷気が体を包み込み、下界の猛暑とは無縁の世界に浸ることができます。
轟音ではあるが騒音ではない、水の迸る音は心を落ち着かせるリラックス効果があります。この滝については、水田有夏志著「近江の滝」に詳細が記載されていますので、そちらを参照されると良いですが、この中で筆者は、「楊梅の滝」は本来「遥拝の滝」であったのではないか、と述べています。
楊梅はヤマモモのことで、室町幕府第十三将軍の足利義輝がここを訪れた時、滝をヤマモモの木に例えて命名したという言い伝えもあるようで、その関係から楊梅の字が当てられたのではないか、というわけです。
確かに、この滝に対面すれば、自然と手を合わせたくなる「遥拝の滝」の名もうなずけます。



制作の裏側
滝壺から見上げた時の、圧倒的な迫力をどのように表現すれば良いのか、勢いある水の表現をどうすれば良いのか、難しい課題でした。
岩に飛び散る水を表現するのに、マスキング液を使ったのは正解であったと思います。
(作品データ: 透明水彩 30号  アルシュ紙 中目)


6月
は「朝もやに咲く」と題したアジサイをご紹介します。
梅雨時の花は何といってもアジサイ。昔からの定番のようです。
確かに、太陽がさんさんと輝く光の中より、小雨にしっとりと濡れたアジサイの方が風情を感じますね。
さて、昔からよくいわれているように、アジサイの色は酸性の土壌では青系、アルカリ性だと赤系ということになっていますが…
ポイントとなるのは、アジサイの色素成分のベースがアントシアニンであることと、色を決定する成分はアルミニュームであること。
酸性の土壌においては、土壌に含まれるアルミニュームが溶け出しやすく、根に吸収され、アントシアニンと結合すると「青」に。
アルカリ性土壌においては、アルミニュームが溶け出しにくく、アントシアニンとの結合もないので「赤」に。
また、白いアジサイはアントシアニンを持っていないため、根から吸収する成分に影響されず、色は変わらない…
ということだそうです。



制作の裏側
アジサイのあの大ぶりな花(装飾花)を咲かせるためのエネルギーは、相当なものが必要であろうことは容易に想像できます。
そのため、栄養の製造工場である葉っぱも、それなりにしっかりしたものでなければならないはず。
確かに、大型で肉が厚く、鋸歯も深く、葉脈もはっきりとしていて、力強い生命力を感じさせてくれます。
そんな葉っぱになるよう、花以上に時間を割いて描きました。
(作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)


5月
はそのものズバリ、「若葉」と題した一枚をご紹介します。
何年か前に登った御在所岳(1,212m)の、北側展望台から眺めた景色で、眼下一面に広がる若葉の黄緑色が強く印象に残り描いたものです。若葉の正体はミズナラでした。
ブナと同様、冷涼な気候を好むミズナラは、関西地方では標高800mくらいから上の山地帯で見られます。
深い切れ込みのある大きな葉っぱ、大型のドングリ、材は堅く緻密で幹肌はシルバーに輝く、一見して風格を感じさせる樹木です。
また、葉は虫の餌として、ドングリは鳥や獣の栄養源として、森の生態系を維持するうえでも重要な樹木であると言えます。



制作の裏側
画面の80パーセント以上を占める黄緑色のゾーンを、単調な色使いにならないよう、また、ミズナラの森であることをわかってもらえるよう、鋸歯を描き込む努力をしました。
        (作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)

4月のこの一枚は「春爛漫」と題して、桜をご紹介します。
新元号が決まり、世間は祝賀ムード一色となりました。そんな時期に桜ほどピッタリの花はないですね。
江戸時代の国文学者である本居宣長は……
「敷島の 大和心を人問はば 朝日に匂う 山桜花」と詠みました。
ソメイヨシノ全盛の今と違い、その頃は、桜といえば山桜が観賞の中心になっていたものと思われます。
さて、日本の桜の80%はソメイヨシノだそうですが、人気の秘密は、葉が出る前にピンクの花が咲き揃うというエドヒガンザクラ(母種)の特長と、大きくて整った花付きの良さというオオシマザクラ(父種)の特長を併せ持っていることから、一斉に咲くと見事な景色となって、人々の心を魅了してしまうから、ということになるのではないでしょうか。



制作の裏側
水彩画の場合、白の部分は絵の具を使わないで、塗り残して画用紙の白を活かすことが多いのですが、桜の花のように 小さなものの集合体は、塗り残すなどという作業は至難の業です。そこで登場するのが、不透明水彩絵の具(ガッシュ)です。これだと、他の色の上に白を塗ることができ、作業がやりやすくなります。
とはいえ、膨大な数の桜の花を一輪一輪描いていくのは、大変根気のいる仕事です。それだけに、豪華絢爛な満開の桜が完成したときの達成感は、他に代え難いものがあります。
  (作品データ: 不透明水彩(ガッシュ) 30号  アルシュ紙 中目)

  
3月のこの一枚は「春の妖精」と題して、カタクリをご紹介します。
春まだ浅い里山の林床に、落葉をかき分けいち早く顔をのぞかせる小さな軍団がいます。
セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ等々。
そして、今月の一枚の「カタクリ」もその一員です。
落葉樹林の樹冠が繁り切らないうちに、陽光がよく射しこむ林床に姿を見せ、葉を広げて光合成をし、花を咲かせ、種を実らせ、樹冠が繁ってくる頃にはもう地上から姿を消しているという早業を駆使して、この後長い休眠に入るという、このような生き方をしている植物群は総称して「スプリングエフェメラル」と呼ばれています。
エフェメラルは「短命の」を意味するギリシャ語の「エフェメーロス」に由来するとされています。
そして、「スプリングエフェメラル」は「春の妖精」と和訳されていますが、日本人の感性が盛り込まれた、なかなかの名訳だと思います。
ちなみに、カタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」だそうです。



制作の裏側
地面からせいぜい10cm程度の草丈で、花の大きさも2~3㎝の小さな植物を、30号の画用紙に描くとなると何倍に拡大されるのか?
巨大なカタクリになってしまったら「春の妖精」のイメージから外れてしまうのでは……と思いながらも、カタクリの可憐さをそこなわないよう、柔らかい色使いになるよう心がけながら制作しました。
この作品をある美術展に出展したところ、審査員が開口一番、この作品の作者は20代のうら若き女性かと思った、とのコメントがあったことを後日談で知りました。古希を越えたオッサンで大変失礼しました(笑)
          (作品データ: 透明水彩30号  ワトソン紙 中目)

2月のこの一枚は、題して「艶葉木(つやばき)」です。
艶葉木とは、ツバキの古名で、また、厚葉木(あつばき)とも呼ばれていました。それがいつしか変化して、現在のツバキと発音されるようになったといわれています。
昔の人は、葉の「艶」や「厚さ」に着目して名前をつけたということでしょうね……。
ツバキといってもその品種は 今や2千種を越えるといわれていますが、日本の自生種は原種のヤブツバキです。
さて、昔の人が着目したツバキの葉の「艶」と「厚」には大きな意味があったのでしょうか?常緑樹であるツバキは冬でも葉を落とさず、弱い光でも光合成ができるよう、葉を厚くしてたくさんの葉緑素を保有する必要がありました。 また、冬の寒さや乾燥、夏の熱気などから大事な葉っぱを守る必要がありました。そのため、表面にクチクラ層という保護膜が形成されています。これが「艶」の正体。
1年中無休で働かなければならない葉っぱには、「艶」と「厚」という手厚い投資がしてあるというわけです。
光合成が科学的に解明されていない大昔、人々が赤い花よりも緑の葉に着目した理由は何か、聞いてみたくはありませんか?



制作の裏側
タイトルを「艶葉木」としたために、花より葉の方が主役のイメージになりました。そのため、タイトルに恥じないよう、花よりも葉を描く方に多くの時間を割きました。
光の反射で艶々とした表面を表現するのに、葉の一部を塗り残し、絵の具が乾かないうちに、濡れた筆で塗り残しと絵の具の境界をなぞってボカす、という作業を葉っぱ一枚ずつ、すべての葉に施しました。なかなか根気のいる作業です。
さて、この一枚が、「艶葉木」のタイトルにふさわしい作品になっていれば良いのですが……。
           (作品データ: 水彩15号  アルシュ紙 中目)

1月は「神のおわす山」と題して、雪を冠した伊吹山を選びました。 
日本百名山で滋賀県の最高峰、標高1377mの名峰は、また、花の山としても人気が高く、毎年多くの登山者、観光客を集めています。
伊吹山を語る題材は数え切れないほどですが、その中で、昭和2年(1927年)2月に記録した積雪量1182㎝は、有人観測史上世界一であり、その記録は未だに破られていないそうです。



この作品の元となったスケッチを描いたのは、2011年2月、米原市入江地区の湖岸に近い田んぼの畔にて。
真っ白な雪を戴いた伊吹山は、まさに「神のおわす山」にふさわしいオーラを発し、輝いていました。 (作品データ: 水彩30号 ワトソン紙・中目)