時候のご挨拶バックナンバー

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時候のご挨拶・今月の一枚  
                               会長 佐々木 建雄

今年は、平成の年号が変わる年でもあり、少し趣向を変えてみることにいたしましょう。
題して「時候のご挨拶・今月の一枚」…というタイトルで、25年ほど続けてきた日曜画家の作品を毎月一枚紹介し、それに森林インストラクターとしてのコメントを加えてみようというものです。
どうぞ、よろしくおつき合い下さい。

4月のこの一枚は「薫風」と題して、彦根市の荒神山をご紹介します。
彦根市の南部に位置し、田園地帯にこんもりとした姿を見せる荒神山は、標高283mの低山ですが、周囲に視界をさえぎるもののない独立峰につき眺望は抜群で、特に琵琶湖にある三つの島を、同じ場所から見ることができます。
滋賀県広しと言えど、他にこのような場所があるでしょうか。
荒神山奥山寺縁起によれば「天平三年行基菩薩が四十九院を建立すべき願いありしところ、忽然大空に声あり、三面八臂(さんめんはっぴ)の姿をあらわし…まずわれを祀らざれば大いに障害をなす…という。行基これに驚き山を開いて奥山寺を創建、多羅樹でその像を造り三宝大荒神といい、これより山の名を荒神山と名づけたり」と山名の由来があります。
麓の曽根沼から見ると、折しも桜のシーズン。山麓に点々と山桜(多分)の淡い色が見えます。
池の畔で桜を眺めていると、一陣の風がサーっと吹き抜け、静かな水面が一瞬ざわめきました。



制作の裏側
春の心地良い風を、画面に表現するのはなかなか難しいことです。
皮膚で感じる心地良さを、視覚で感じてもらわなければならないのですから。
風を受ければ草や木の葉も動きますが、小さな画面にはなかなか表現しづらいものです。
そこで目をつけたのが水面。風が吹くたびに水面に模様ができます。
どうか、想像力を目いっぱい働かせて、この場に立って風を受けているつもりでご覧いただければ幸いです。
(作品データ: 透明水彩 F4号 ミューズ 中目)

3月のこの一枚は「霊木」と題して、コウヤマキを紹介します。
NHKの朝ドラ「スカーレット」も今月をもって終了の様ですが、舞台となった信楽にちなんで、この題材を選びました。
信楽高原鉄道の終点、信楽駅の一つ手前に、玉桂寺前という駅がありますが、その駅の目の前に玉桂寺という真言宗の古刹があります。
境内には弘法大師お手植えと言い伝えのある、りっぱな「コウヤマキ」の巨木があり、昭和44年3月に滋賀県の天然記念物に指定されています。
以前訪れた際、記憶に留めておこうとスケッチしたものです。
コウヤマキはコウヤマキ科のなかで1属1種、日本固有種で、水に強く朽ちにくいことから、古代には貴人の最高級の木棺として、また水桶や橋杭などに使われたようです。
また、秋篠宮家悠仁親王の御印の木としても知られています。



制作の裏側
スケッチの現場は、お寺の本堂に向かう石段の左右で、いくつもの株が群生していて、お寺の看板によれば左側に43株、右側に22株もあり、とても全容を収めることは不可能。
そこで、特に左側の主幹の幹回りが6.1m、樹高が31.5mであることから、この幹を主に描くことにしました。
正確な樹齢は定かではありませんが、数百年を経ていることは間違いないでしょう。過酷な自然環境に堪えてきた、その様子が少しでも表現できればとの思いで制作しました。  
(作品データ: 水彩F4号  マルマン)


2月
のこの一枚は「飛翔」と題して、オオワシを紹介します。
地元の人たちから、「山本山のオバアチャン」と呼ばれ親しまれているのは、今年で飛来22回目を数えるオオワシの雌。
年齢は推定28歳以上。人間でいえば、もう90歳になろうかという超高齢の個体です。
本来はオホーツク海あたりで魚を捕りながら越冬するオオワシですが、何故かこのオバアチャンだけが毎年琵琶湖に渡って来て、湖北の山本山をねぐらにしているのか……?
少なくとも、棲みやすく餌が豊富だという理由は間違いないところでしょうが、この個体一羽だけが毎年というのは謎です。
ところで、いま海がプラスチック汚染で深刻な状態に陥っています。
毎年800万トンものプラスチックが、ゴミとして海に溜まっているそうで、海洋生物への影響が深刻化しています。
風化や波の力でマイクロ化したプラスチックは、まず魚介類に取り込まれ、いずれ、食物連鎖の頂点にいるオオワシにも悪影響が出るのは必至です。
もちろん、われわれ人間も例外ではありませんが、それは元凶を作り出した者への天罰だと言われれば、反論の余地はないでしょう。
山本山のオバアチャンは、今月の末には北に帰って行きます。
来年23回目の飛来が確認されたら、是非一度、その雄姿を見たいものです。



制作の裏側
野生動物を、じっくりスケッチするなどというのはまず不可能です。
まして、自由に飛び回る鳥となるとなおさらのこと。
そこで、頼るのは写真ということになりますが、それでも素人には難しい。
写真をもとに絵にするというのは、本来やってはいけないことですが、今回は、その禁を犯してしまいました。
飛来を知らせる新聞記事は必ず写真つきで掲載されるので、その写真を拝借したという次第です。
(作品データ: 水彩F3号  マルマン)


1月 このコーナーも二巡目の新年となりました。
今年もよろしくお願いいたします。
さて今月は「老楠の春」と題して、京都市東山区にある青蓮院の楠の巨木をご紹介します。 
説明看板によれば、樹齢800年、幹周り6mとのことで、京都市の天然記念物にも指定されています。
これだけ樹齢を経ていても、春になると元気に黄緑色の葉をいっぱいに繁らせ、辺りにパワーを放っています。
このパワーの素になっているのが、フィトンチッドと呼ばれる抗菌、防虫作用を持つ物質で、昔は楠から抽出した樟脳が防虫剤として、どこの家庭でも箪笥に入っていたものでした。
ちなみに、樟脳の「樟」の字はクスノキの中国名で、楠は和名とのことです。
老いてもなお盛ん。青蓮院の老楠にあやかりたいものです。



制作の裏側
この作品を描くためにスケッチに行ったのは、もう10年も前。
三条通りの粟田口から知恩院、円山公園の方に抜ける道沿いにある巨木が、お目当ての楠です。
スケッチをするには、場所的条件からどうしても道沿いの塀にぴったりと背中をつけた姿勢しかとれなくて、ずい分きゅうくつな作業となり、また下手なスケッチでは人目も気になり、とても楽しみながら悠々という心境ではありませんでしたが、作品が出来上がってしまえば、苦労も楽しい思い出に変化してしまうようです。
(作品データ: 水彩15号 アルシュ紙・中目


12月
は「和 」と題して、三島池の水鳥をご紹介します。
伊吹山のふもとにある三島池は、伊吹山が逆さに写る池として、アマチュアカメラマンや絵描きの格好の題材になっています。
また、静かな水面は水鳥たちの絶好の休息場所にもなっています。
雪を戴いた伊吹の麓で、マガモの夫婦がくつろいでいる様子は、平和そのもの……。
地球上のすべての場所で、この様に平和な光景が見られるようにとの願いを込めて描きました。
今年一年、ご訪問ありがとうございました。



制作の裏側
水面に氷が張った様子を絵の具で表現するテクニックは色々あると思うのですが、ちょっと変わったおもしろい方法として、食塩を使うやり方があります。
紙面に水をたっぷり含ませ、淡いブルーをサーッと塗ります。水分が乾かないうちに、その上に食塩をパラパラとふりかけます。食塩が水分を吸収すると、紙面は複雑なまだら模様ができ、氷の表面を思わせるような景色になるというわけです。
完全に乾いたら、塩をきれいに払い落とします。
(作品データ: 透明水彩10号 アルシュ紙 中目)

11月は「山おやじ 」と題して、ブナの老木をご紹介します。
数年前、比良連峰の一つ「釈迦岳(1,060.3 m)」に登った時、ブナの群生と出遭いました。
日本海側から吹き付ける風と深い雪の重みですべての木の根元が一旦琵琶湖側に倒れ、そして力強く空に向かい立ちあがっていました。
ブナは本来、平滑で美しい幹肌をしているのですが、長年風雨にさらされると様々な傷痕が残ります。
痛々しさを感じるのですが、それが却ってブナの生きてきた軌跡として、力強く訴えてくるものがあります。
ブナの老木の、苦闘の歴史に敬意を込めて描きました。



制作の裏側
「山おやじ」という呼び名は、北海道ではヒグマのことを指すそうです。
また、薪炭材として萌芽更新を繰り返しているうちに、根元付近がコブになり、なかには洞ができているものもある、高島市マキノの雑木林のクヌギを指して、写真家の今森光彦氏が命名した呼び名でもあるそうです。
今回の作品は材がブナですが、その表情をみていると、どうしても作品名として「山おやじ」以外に思いつかず、使わせていただきました。
(作品データ: 透明水彩 30号 ワトソン紙 中目)


10月は「樹冠 」と題して、森の様子をご紹介します。
森を外側から見ると、樹木は好き勝手に幹や枝を伸ばし、葉を繁らせているかのように見えます。
確かに、手入れの悪い人工林などは、狭いすき間からわずかにさし込む光を求めて、枝が密集して光をさえぎり、暗い森が形成されています。
ところが、遷移の最終段階である極相の森であるにもかかわらず、森の内部に入って見上げると、シイ、カシなどの大木がかなりの密度で生育している森でも、樹木同士の秩序が保たれているかのように、樹冠と樹冠の間にわずかの緩衝地帯ができ、お互いの枝葉が重ならないような造りになっていることがわかりました。
その様子が模様として面白く、画用紙に表現してみようと思いました。
森の木々の分をわきまえた謙虚さには、とてもまぶしいものを感じます。



制作の裏側
今回の作品は絵画というより、むしろ自然観察見取り図といった方が良いのかも知れません。
森林インストラクターが個人的な興味から作成したものなので、一般受けはしないと思います。
森も見る角度を変えればこうなる、と受けとめていただければ幸いです。
(作品データ: 透明水彩 30号 ワトソン紙 中目)


8月は「飛翔 」と題して、渡りをする蝶 のご紹介です。
アサギマダラという、色彩のきれいな蝶がいます。
真夏の空と同じ、ブルーの羽根が鮮やかです。
蝶といえば、花から花へフワリフワリと優雅に舞う姿が一般的なイメージですが、この蝶は違った面を持っています。
暖かい夏を日本で過ごしたアサギマダラは、秋になると南に渡ります。
その距離、何と2千km。
国際的に愛好家の間で確認された記録は、
春の北上例で、台湾陽明山→滋賀県大津市の1790km(所要39日間)
秋の南下例で、和歌山県日高町→香港の2420km(所要83日間)
などがあります。
一見頼りなさそうに見える蝶の、どこにこんなエネルギーがあるのか?
どんな飛行コースを取るのか?途中、どれくらい休憩をしているのか?
まだまだ謎の部分があるようです。
アサギマダラと出合うには、彼、彼女らの好物のある場所に行くのが一番。
真夏は標高1,000mくらいの山地で、ヨツバヒヨドリ、ノリウツギの花へ。
9月~11月の低山、平野部で、フジバカマ、ヒヨドリバナ、アザミ、ツワブキなどに吸蜜に来るそうです。



制作の裏側
野生の生き物をスケッチするのは難しい。特に鳥や蝶はすぐに飛んで行ってしまうので、まずスケッチは不可能。そこでカメラの助けを借りることになる。
伊吹山の山頂遊歩道・東コースを歩き終え、終点である駐車場に到着する直前に幸運が訪れた。
道端に咲くヨツバヒヨドリの花に、アサギマダラが吸蜜に来ているのを発見。
すでに先客が三人ほどカメラを構えている。急いでカメラを取り出しレンズを向ける。
ズームを操作する間も、飛んで行ってしまうのではと気はあせるばかり。
しかし、この被写体は、こちらの気持ちを察してか、逃げずにポーズをとり続けてくれた。
(作品データ: 透明水彩 6号  ワトソン紙 中目)


7月は「迸る(ほとばしる)」と題して滝のご紹介です。
暑くなると水辺が恋しくなります。
ちょうど一年前、涼を求めて目指したのは「楊梅(ようばい)の滝」でした。
湖西線の北小松駅から、頑張れば歩いて1時間と少しの行程で、雄滝の滝壺へたどり着くことができます。
滝壺に降りると、轟音とともに冷気が体を包み込み、下界の猛暑とは無縁の世界に浸ることができます。
轟音ではあるが騒音ではない、水の迸る音は心を落ち着かせるリラックス効果があります。この滝については、水田有夏志著「近江の滝」に詳細が記載されていますので、そちらを参照されると良いですが、この中で筆者は、「楊梅の滝」は本来「遥拝の滝」であったのではないか、と述べています。
楊梅はヤマモモのことで、室町幕府第十三将軍の足利義輝がここを訪れた時、滝をヤマモモの木に例えて命名したという言い伝えもあるようで、その関係から楊梅の字が当てられたのではないか、というわけです。
確かに、この滝に対面すれば、自然と手を合わせたくなる「遥拝の滝」の名もうなずけます。



制作の裏側
滝壺から見上げた時の、圧倒的な迫力をどのように表現すれば良いのか、勢いある水の表現をどうすれば良いのか、難しい課題でした。
岩に飛び散る水を表現するのに、マスキング液を使ったのは正解であったと思います。
(作品データ: 透明水彩 30号  アルシュ紙 中目)


6月
は「朝もやに咲く」と題したアジサイをご紹介します。
梅雨時の花は何といってもアジサイ。昔からの定番のようです。
確かに、太陽がさんさんと輝く光の中より、小雨にしっとりと濡れたアジサイの方が風情を感じますね。
さて、昔からよくいわれているように、アジサイの色は酸性の土壌では青系、アルカリ性だと赤系ということになっていますが…
ポイントとなるのは、アジサイの色素成分のベースがアントシアニンであることと、色を決定する成分はアルミニュームであること。
酸性の土壌においては、土壌に含まれるアルミニュームが溶け出しやすく、根に吸収され、アントシアニンと結合すると「青」に。
アルカリ性土壌においては、アルミニュームが溶け出しにくく、アントシアニンとの結合もないので「赤」に。
また、白いアジサイはアントシアニンを持っていないため、根から吸収する成分に影響されず、色は変わらない…
ということだそうです。



制作の裏側
アジサイのあの大ぶりな花(装飾花)を咲かせるためのエネルギーは、相当なものが必要であろうことは容易に想像できます。
そのため、栄養の製造工場である葉っぱも、それなりにしっかりしたものでなければならないはず。
確かに、大型で肉が厚く、鋸歯も深く、葉脈もはっきりとしていて、力強い生命力を感じさせてくれます。
そんな葉っぱになるよう、花以上に時間を割いて描きました。
(作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)


5月
はそのものズバリ、「若葉」と題した一枚をご紹介します。
何年か前に登った御在所岳(1,212m)の、北側展望台から眺めた景色で、眼下一面に広がる若葉の黄緑色が強く印象に残り描いたものです。若葉の正体はミズナラでした。
ブナと同様、冷涼な気候を好むミズナラは、関西地方では標高800mくらいから上の山地帯で見られます。
深い切れ込みのある大きな葉っぱ、大型のドングリ、材は堅く緻密で幹肌はシルバーに輝く、一見して風格を感じさせる樹木です。
また、葉は虫の餌として、ドングリは鳥や獣の栄養源として、森の生態系を維持するうえでも重要な樹木であると言えます。



制作の裏側
画面の80パーセント以上を占める黄緑色のゾーンを、単調な色使いにならないよう、また、ミズナラの森であることをわかってもらえるよう、鋸歯を描き込む努力をしました。
        (作品データ: 透明水彩 15号  アルシュ紙 中目)

4月のこの一枚は「春爛漫」と題して、桜をご紹介します。
新元号が決まり、世間は祝賀ムード一色となりました。そんな時期に桜ほどピッタリの花はないですね。
江戸時代の国文学者である本居宣長は……
「敷島の 大和心を人問はば 朝日に匂う 山桜花」と詠みました。
ソメイヨシノ全盛の今と違い、その頃は、桜といえば山桜が観賞の中心になっていたものと思われます。
さて、日本の桜の80%はソメイヨシノだそうですが、人気の秘密は、葉が出る前にピンクの花が咲き揃うというエドヒガンザクラ(母種)の特長と、大きくて整った花付きの良さというオオシマザクラ(父種)の特長を併せ持っていることから、一斉に咲くと見事な景色となって、人々の心を魅了してしまうから、ということになるのではないでしょうか。



制作の裏側
水彩画の場合、白の部分は絵の具を使わないで、塗り残して画用紙の白を活かすことが多いのですが、桜の花のように 小さなものの集合体は、塗り残すなどという作業は至難の業です。そこで登場するのが、不透明水彩絵の具(ガッシュ)です。これだと、他の色の上に白を塗ることができ、作業がやりやすくなります。
とはいえ、膨大な数の桜の花を一輪一輪描いていくのは、大変根気のいる仕事です。それだけに、豪華絢爛な満開の桜が完成したときの達成感は、他に代え難いものがあります。
  (作品データ: 不透明水彩(ガッシュ) 30号  アルシュ紙 中目)

  
3月のこの一枚は「春の妖精」と題して、カタクリをご紹介します。
春まだ浅い里山の林床に、落葉をかき分けいち早く顔をのぞかせる小さな軍団がいます。
セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ等々。
そして、今月の一枚の「カタクリ」もその一員です。
落葉樹林の樹冠が繁り切らないうちに、陽光がよく射しこむ林床に姿を見せ、葉を広げて光合成をし、花を咲かせ、種を実らせ、樹冠が繁ってくる頃にはもう地上から姿を消しているという早業を駆使して、この後長い休眠に入るという、このような生き方をしている植物群は総称して「スプリングエフェメラル」と呼ばれています。
エフェメラルは「短命の」を意味するギリシャ語の「エフェメーロス」に由来するとされています。
そして、「スプリングエフェメラル」は「春の妖精」と和訳されていますが、日本人の感性が盛り込まれた、なかなかの名訳だと思います。
ちなみに、カタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」だそうです。



制作の裏側
地面からせいぜい10cm程度の草丈で、花の大きさも2~3㎝の小さな植物を、30号の画用紙に描くとなると何倍に拡大されるのか?
巨大なカタクリになってしまったら「春の妖精」のイメージから外れてしまうのでは……と思いながらも、カタクリの可憐さをそこなわないよう、柔らかい色使いになるよう心がけながら制作しました。
この作品をある美術展に出展したところ、審査員が開口一番、この作品の作者は20代のうら若き女性かと思った、とのコメントがあったことを後日談で知りました。古希を越えたオッサンで大変失礼しました(笑)
          (作品データ: 透明水彩30号  ワトソン紙 中目)

2月のこの一枚は、題して「艶葉木(つやばき)」です。
艶葉木とは、ツバキの古名で、また、厚葉木(あつばき)とも呼ばれていました。それがいつしか変化して、現在のツバキと発音されるようになったといわれています。
昔の人は、葉の「艶」や「厚さ」に着目して名前をつけたということでしょうね……。
ツバキといってもその品種は 今や2千種を越えるといわれていますが、日本の自生種は原種のヤブツバキです。
さて、昔の人が着目したツバキの葉の「艶」と「厚」には大きな意味があったのでしょうか?常緑樹であるツバキは冬でも葉を落とさず、弱い光でも光合成ができるよう、葉を厚くしてたくさんの葉緑素を保有する必要がありました。 また、冬の寒さや乾燥、夏の熱気などから大事な葉っぱを守る必要がありました。そのため、表面にクチクラ層という保護膜が形成されています。これが「艶」の正体。
1年中無休で働かなければならない葉っぱには、「艶」と「厚」という手厚い投資がしてあるというわけです。
光合成が科学的に解明されていない大昔、人々が赤い花よりも緑の葉に着目した理由は何か、聞いてみたくはありませんか?



制作の裏側
タイトルを「艶葉木」としたために、花より葉の方が主役のイメージになりました。そのため、タイトルに恥じないよう、花よりも葉を描く方に多くの時間を割きました。
光の反射で艶々とした表面を表現するのに、葉の一部を塗り残し、絵の具が乾かないうちに、濡れた筆で塗り残しと絵の具の境界をなぞってボカす、という作業を葉っぱ一枚ずつ、すべての葉に施しました。なかなか根気のいる作業です。
さて、この一枚が、「艶葉木」のタイトルにふさわしい作品になっていれば良いのですが……。
           (作品データ: 水彩15号  アルシュ紙 中目)

1月は「神のおわす山」と題して、雪を冠した伊吹山を選びました。 
日本百名山で滋賀県の最高峰、標高1377mの名峰は、また、花の山としても人気が高く、毎年多くの登山者、観光客を集めています。
伊吹山を語る題材は数え切れないほどですが、その中で、昭和2年(1927年)2月に記録した積雪量1182㎝は、有人観測史上世界一であり、その記録は未だに破られていないそうです。



この作品の元となったスケッチを描いたのは、2011年2月、米原市入江地区の湖岸に近い田んぼの畔にて。
真っ白な雪を戴いた伊吹山は、まさに「神のおわす山」にふさわしいオーラを発し、輝いていました。 (作品データ: 水彩30号 ワトソン紙・中目)