時候のご挨拶バックナンバー

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時候のご挨拶・今月の一枚  
                               会長 佐々木 建雄

今までこのコーナーは、時候のご挨拶として、写真の画像で様々な自然をご紹介してきました。
今年は、平成の年号が変わる年でもあり、少し趣向を変えてみることにいたしましょう。
題して「時候のご挨拶・今月の一枚」…というタイトルで、25年ほど続けてきた日曜画家の作品を毎月一枚紹介し、それに森林インストラクターとしてのコメントを加えてみようというものです。
どうぞ、よろしくおつき合い下さい。


  
3月のこの一枚は「春の妖精」と題して、カタクリをご紹介します。
春まだ浅い里山の林床に、落葉をかき分けいち早く顔をのぞかせる小さな軍団がいます。
セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ等々。
そして、今月の一枚の「カタクリ」もその一員です。
落葉樹林の樹冠が繁り切らないうちに、陽光がよく射しこむ林床に姿を見せ、葉を広げて光合成をし、花を咲かせ、種を実らせ、樹冠が繁ってくる頃にはもう地上から姿を消しているという早業を駆使して、この後長い休眠に入るという、このような生き方をしている植物群は総称して「スプリングエフェメラル」と呼ばれています。
エフェメラルは「短命の」を意味するギリシャ語の「エフェメーロス」に由来するとされています。
そして、「スプリングエフェメラル」は「春の妖精」と和訳されていますが、日本人の感性が盛り込まれた、なかなかの名訳だと思います。
ちなみに、カタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」だそうです。



制作の裏側
地面からせいぜい10cm程度の草丈で、花の大きさも2~3㎝の小さな植物を、30号の画用紙に描くとなると何倍に拡大されるのか?
巨大なカタクリになってしまったら「春の妖精」のイメージから外れてしまうのでは……と思いながらも、カタクリの可憐さをそこなわないよう、柔らかい色使いになるよう心がけながら制作しました。
この作品をある美術展に出展したところ、審査員が開口一番、この作品の作者は20代のうら若き女性かと思った、とのコメントがあったことを後日談で知りました。古希を越えたオッサンで大変失礼しました(笑)
          (作品データ: 透明水彩30号  ワトソン紙 中目)

2月のこの一枚は、題して「艶葉木(つやばき)」です。
艶葉木とは、ツバキの古名で、また、厚葉木(あつばき)とも呼ばれていました。それがいつしか変化して、現在のツバキと発音されるようになったといわれています。
昔の人は、葉の「艶」や「厚さ」に着目して名前をつけたということでしょうね……。
ツバキといってもその品種は 今や2千種を越えるといわれていますが、日本の自生種は原種のヤブツバキです。
さて、昔の人が着目したツバキの葉の「艶」と「厚」には大きな意味があったのでしょうか?常緑樹であるツバキは冬でも葉を落とさず、弱い光でも光合成ができるよう、葉を厚くしてたくさんの葉緑素を保有する必要がありました。 また、冬の寒さや乾燥、夏の熱気などから大事な葉っぱを守る必要がありました。そのため、表面にクチクラ層という保護膜が形成されています。これが「艶」の正体。
1年中無休で働かなければならない葉っぱには、「艶」と「厚」という手厚い投資がしてあるというわけです。
光合成が科学的に解明されていない大昔、人々が赤い花よりも緑の葉に着目した理由は何か、聞いてみたくはありませんか?



制作の裏側
タイトルを「艶葉木」としたために、花より葉の方が主役のイメージになりました。そのため、タイトルに恥じないよう、花よりも葉を描く方に多くの時間を割きました。
光の反射で艶々とした表面を表現するのに、葉の一部を塗り残し、絵の具が乾かないうちに、濡れた筆で塗り残しと絵の具の境界をなぞってボカす、という作業を葉っぱ一枚ずつ、すべての葉に施しました。なかなか根気のいる作業です。
さて、この一枚が、「艶葉木」のタイトルにふさわしい作品になっていれば良いのですが……。
           (作品データ: 水彩15号  アルシュ紙 中目)

1月は「神のおわす山」と題して、雪を冠した伊吹山を選びました。 
日本百名山で滋賀県の最高峰、標高1377mの名峰は、また、花の山としても人気が高く、毎年多くの登山者、観光客を集めています。
伊吹山を語る題材は数え切れないほどですが、その中で、昭和2年(1927年)2月に記録した積雪量1182㎝は、有人観測史上世界一であり、その記録は未だに破られていないそうです。



この作品の元となったスケッチを描いたのは、2011年2月、米原市入江地区の湖岸に近い田んぼの畔にて。
真っ白な雪を戴いた伊吹山は、まさに「神のおわす山」にふさわしいオーラを発し、輝いていました。 (作品データ: 水彩30号 ワトソン紙・中目)